「王子...」
「わたしは...どうしたらいいのだ?」
いきなりなんだ、と聞き返すと、ラピスはぽつぽつと喋り始めた。
「今度...王國は、白の帝國の者たちとの新睦を深める為の會食を行う」
「...だな?」
ああ、と俺は彼女の真意が分からず、少しだけ遅れて返事をする。
「もう少しでその日を迎えるわけだが、わたしは、ちゃんと人間らしく振る舞えるだろうか?」
「...ん?」
「何を驚いている?」
「私が人間らしく振る舞おうとしてはいけないのか?」
いや、そういうことではない。
ラピスが人間の慣習に合わせようとすることが何だか意外だったのだ
「私を何だと思ってるのだ、お前は?」
「いくら魔界の者といえど、ある程度の節(jié)度はおきまえているつもりだ」
「...それに帝國には大事な友人がいる」
「あいつに、恥ずかしところは見せたくない」
「そう思うのはいけないことか?」
無表情でそう言うラピスに俺は妙な感動を覚えていた
全く悪いことなどない、とラピスに応じ、そういうことなら協(xié)力は惜しまないと伝える。
「そうか。それは有難いな」
「で、まずは食事の作法なのだが」
「どちらの手で食べ物を摑むのが禮儀正しいのだ?」
ラピスの質問の意図が分からない。
パンや果物を食べる時のことを言ってるのだろうか?
「...え?パン?いや、あのふわふわとした食べ物以外も...、というより私は全て食事において手で食べ物に觸れる」
「...は?、その時點でおかしい?」
「...むぅ」
「世話をしてくれている給仕やアンナ達には、注意されたことはないのだがな」
「...いや、ここに來て最初の食事の時に、何か色々と言われたような気もするな」
「そう、たしかあの時は...」
「ナイフとかフォークだとか言う名の、奇妙な武器を差し向けてきたから、敵意があるのかと思って我が力を発動しかけたのだった」
「まったく...あれ以來、アンナもクイティもわたしにはあまり関わらなくなったのだが、あいつらはこのラピスを謀殺しようとでもいうのか?」
そんなことあるわけがないだろ、と返しつつ、自分がいかにラピスという存在の異常さを理解していなかったのかを知ってしまう。
女性陣たちに様々な対応を任せていたが、まさかこんなことになっていたとは...。
「...なんだと?」
「人間界の食事では、ちゃんとナイフやフォーク...、それにスプーンというものを使わなくてはいけないのか?」
「何故だ?」
「大地の恵みに直接觸れずして、お前たちは食事をするというのか?」
「...理解に苦しむな」
「食事とは味覚や空腹を満たす為だけの行為ではないというのに」
「まあいい、今さらそんなことを說いたところで意味など無いのだろうしな」
「王子、時間がない。帝國の者たちと會う前に、人間界の禮儀をわたしに教え込め」
「...なに?」
「大事なのは、相手を思いやる心...?」
「そういうのはいい」
「ほら、さっさと教える用意をしろ」
「とりあえずは食事の禮儀作法を今日中に覚える」
「そして、明日ーー」
その後も色々と覚えるべきことをラピスは俺に語って聞かせる。
そんな妙な一生懸命さを見せるラピスが何だか放っておけなくて、俺はしばらくの間、彼女にこの世界での様々な常識を教えてあげることにするのだった。