「サトルって、昔ぼっちだったんじゃないの」
空野アイ、異常発見事務所の所長、ミルクティーらしきものを吸い、足を組みながら俺の方へ見やる。
「うるせぇわ、俺はそれなりに友達居るタイプだろ」明後日へ向いて冷や汗をかいてやまず、俺は指を立てて過去の記憶を取り上げようとするものの、それらしき友人の面影も出ないから捏造を試みるしかない
「......ああ、トモカズとよく遊園地言ってたなー、カードゲームをやるダチも今元気かなー」
「騙す気あるのか、この噓つきめ。」空野のドS眼光が鋭く俺を射抜く。下手な芝居どころか、プロの役者も彼女に演技の荒さを指摘されてしまうだろう。
でもこのときはもう、元気のなさがばれてしまうのかな。
心が裂かれてしまいそうだ、たまっていたストレスの蓄積に。
「.......ごめん、本當は俺空っぽの人間だったな」天井を見上げ、まぶしい蛍光燈を目の當たりにしてなお目を閉じる、その暗闇の中の赤みを浴びることにした。
なぜならこうすることでこの何とも言えない情緒を和らげることができるから
「それについて深堀するつもりよ、許してください、じゃないとサトルをさらなる境地へ導くことはできないでしょ。サトルはトラウマを大きく抱えるタイプだ。現象『そのもの』を観測してしまうため、他人の行動や思考が具現化した結晶のようなものしか認識できず、メタ認識を欠如としている」
「......どういうことだ、もうすこし簡単な言葉でしゃべってくれ」
「他人が直感的にできることは、君にはできない。運動神経といい、言語の會得といい、人付き合いといい、流れについていけず、すべて恣意的にルールを覚えるしかない、それか場數を踏むこと。これは......そうだな、俗に言うアスペってやつですね、アスペルガー障害」
「いいえ、それだけで解釈不能だろう。アスペって割といるじゃないですか、なんか百人に一人くらい、統計的に」
「まぁ君はアスペだと仮定しよう、そこは重要じゃない。私が言いたいのは、君が自身の主體性のなさを憎悪し、そのやるせなさを人助けすることで罪悪感を軽減させ、生きるに値する人間になりたい、このようなことを考えてるんじゃないかな」
「それは...…そう。そうしか生きられないから、だからどうしても自己嫌悪に陥るんだ」
「何もない、空っぽ。お前はこの言葉を言われた時、いつも怒ってたんでしょ。」
空野は立ち上げ、俺のそばまで歩いてきて、俺の肩をぽんっと觸れる。
「そのときのつらい顔は、もう見たくないから、なんとかしてあげたい。」空野の意志強く、けれど優しい目が見つめてくる、「今度は私の番だ。なんとかその壊れてしまいそうな君を、少しでも......」
涙が、ホロリと。
彼女は俺のために、ひすひすと真面目に、本気で泣いてくれている。
「あんなに頑張っていたのに、他人を救おうとしていたのに......」
いつもの彼女らしくないほどの嗚咽。ガキが泣くようなブスい泣き顔。
これほど泣いてくれた人は居なかった。
一人も。
思わず、俺も涙してしまった。
そして少し救いを感じてしまった。