騎士ランドルフとアップルパイ騎士蘭道魯夫與蘋果派
原文連結本編「服飾師と菓子と騎士」(https://ncode.syosetu.com/n7787eq/203/)後の、ランドルフのお話です。本篇「
服飾師與點心與騎士」之後的蘭道魯夫的故事。
—————————————————————
魔物討伐部隊の遠征後の休み、ランドルフは王都の中央區に來ていた。 魔物討伐部隊遠征後的休假,蘭道魯夫來到了王都的中央區。
向かうのは焼き立ての焼き菓子で有名な喫茶店である。 前往的是以剛烤好的烤點心而聞名的喫茶店。
午前のお茶の時間が終わってしばらくの時間帯は混みづらい、そう、緑髪の女性が教えてくれた。 上午茶時間結束的一段時間比較清閒,沒錯、是綠髮女性告知的。
先日、魔物討伐部隊の相談役であるダリヤ、そして、服飾師であるルチアと共にこの店を訪れた。 前幾天與身為魔物討伐部隊顧問的妲莉雅,還有身為服飾師的露琪亞一同到訪這家店。
男だから甘い物が好きだと公言できなかったランドルフに、甘い物が好きなのに性別は関係はないと、好きなものは好きでいいのだと、はっきり言ってくれた。 對因為是男的而無法公開說喜歡甜食的蘭道魯夫,明白說出喜歡甜食跟性別沒有關係,喜歡的東西喜歡就好。
男らしく、魔物討伐部隊員らしく、騎士らしく、伯爵家の一員らしく―― 像個男人,像個魔物討伐部隊員,像個騎士,像個伯爵家的一員——
そんな気負いを、あの二人はあっさりゆるめてくれた。 那兩人很輕易的就把那樣的逞能鬆開掉。
それでも、一人で喫茶店に入るのは少しだけ勇気を要し――ようやくに入る。 儘管如此要一個人進入喫茶店需要一點勇氣——終於進去了。
女性店員に笑顔で挨拶され、お一人様ですかと確認された。 被女性店員用笑臉問候,被確認是否為一個人。
肯定すると、呆気なく窓際のテーブルに案內される。 肯定後就很簡單的被帶領到靠窗的桌子。
四人掛けのテーブルを一人で占領していいものかと思ったが、確かに店內はすいている。 雖想著可以一個人佔領四人座的桌子嗎,但店內確實很空曠。
周囲には一人で來ている者、カップルや友人らしい二人組がわずかにいるだけだった。 周圍只有些許一個人來的人、情侶或友人般的兩人組。
「ご注文はお決まりですか?」「決定要來點什麼了嗎?」
「アップルパイとミルクティ――シュークリームとキャラメルプディングで」「蘋果派與奶茶——泡芙與焦糖布丁」
「ありがとうございます。少々お待ちください」「多謝惠顧。請稍等一下」
一瞬迷ったが、遠慮なく食べたいものを注文した。 一瞬間迷惘了,但還是毫不客氣的點了想吃的東西。
ちょっと動悸がしているが、椅子に座り直し、持って來た本を開く。 有點心慌的重新坐在椅子上、打開帶來的書。
『魔物の生態』の最新版、著者は隣國の魔物研究家だ。 是『魔物的生態』最新版,作者是鄰國的魔物研究者。
オルディネ王國と隣國エリルキアの國境には、広大な森がある。 在歐魯迪涅王國與鄰國艾利魯奇亞的國境上有座廣大的森林。
隣國との行き來はそれを大きく迂回した道が使われる。 與鄰國的往來是使用大大繞過那裡的道路。
森には多くの魔物がおり、毒の濕地があるからだ。また、人が入れば迷うことが多い。 因為在森林裡存在很多的魔物、有毒的濕地。再者人進去經常會迷路。
國境と共に、森の手前で魔物から領地を守るのが國境伯爵のグッドウィン家――ランドルフのである。 與國境一同在森林邊緣從魔物那保護領地的就是國境伯爵古德溫家——蘭道魯夫的原生家。
王都に來てからは一度も帰っていないが、魔物の大きな被害や國境での諍いはないと聞いていた。 來王都之後一次都沒有回去,但聽說沒有受到魔物很大的損害及在國境上的爭執。
「ミルクティとシュークリーム、キャラメルプディングです。アップルパイは間もなく焼き上がりますので、少々お時間をくださいませ」「這是奶茶與泡芙、焦糖布丁。蘋果派不久就烤好了,請再稍等點時間」
運んで來てくれた店員に禮を述べ、ミルクティを一口飲む。予想よりちょっと熱かった。 跟端來的店員答謝,喝了一口奶茶。比預料的還燙。
少し痛む舌を水で鎮め、シュークリームを手に、遠慮なくはむりといった。 用水平息有點痛的舌頭,拿起泡芙說要不客氣是不可能的。
王都の喫茶店では、シュークリームはナイフとフォークで食べる必要はないそうだ。 在王都的喫茶店似乎不需要用刀叉吃泡芙。
魔物討伐部隊の後輩にそう聞いて、隊で食べているときと同じように食べる。 如此聽魔物討伐部隊的後輩說, 就跟在隊上吃著時一樣去吃。
シューの皮は少し塩が多め、たっぷりのカスタードクリームは甘く、両者の混じり合う味わいがとてもいい。 泡芙皮的鹽有點多,滿滿的卡士達醬很甜,兩者混合起來品嚐非常棒。
食べていると反対側から少しカスタードクリームがこぼれそうになる。それだけみっちりと入っているのだろう。 吃下去後卡士達醬就稍微從另一側溢出。是塞得滿滿的吧。
しかし、皮と中身はやはり一緒に食べたい。九十度ほど角度をずらし、慎重に口に運ぶ。 可是皮與內餡果然想一起吃。轉個九十度左右的角度,慎重地送進嘴裡。
しみじみとおいしさの調和を楽しんでいると、周囲でシュークリームを頼む聲が続けて聞こえた。 深切地享受著美味的調和後,聽到周圍不斷點泡芙的聲音。
やはり、ここの店のものはおいしいらしい。 果然這裡店的東西似乎很美味。
続けて食べるキャラメルプディングは、色合いも焦がしもちょうどいい、よい味だ。 接著吃的焦糖布丁不論色澤或焦味都恰到好處,味道不錯。
二層になっていて、下が一段ほろ苦い味に変わるのもいい。 分作兩層,下面變成更加苦了一點的味道也很棒。
入る前は人目が少し気になっていたが、不要だったらしい。 進來以前有點在意別人目光,但似乎不需要。
誰に何を言われるわけでもなく、周囲もそれぞれ追加を頼んだり、メニュー表を見たりして話している。 也不會被任何人說什麼,周圍也是各自點了追加、看著菜單聊著天。
そもそも、おいしいものを食べるときというのは集中するものだ。 原本吃著美味的東西時就是會很集中。
なんとはなしに納得していると、店員が銀のトレイの上に次の菓子を載せてきた。 總覺得能認同後,店員把下個點心放到銀色托盤上來了。
「焼き立てのアップルパイです。どうぞお召し上がりください」「這是剛烤好的蘋果派。還請好好享用」
笑顔の店員に禮を言い、追加のカフェオレも頼んだ。 對笑臉店員道謝,點了追加的咖啡歐蕾。
まだ薄い湯気を立てるアップルパイに、ふと隣國にいた頃を思い出す。 面對還冒著淡淡熱氣的蘋果派,忽然回想起在鄰國的時刻。
學生時代、喫茶店へ連れて行かれたことがある。 學生時代有被帶去喫茶店過。
ここのように大きな店でも、菓子の種類が多いわけでもなかったが、清潔感のある居心地のよさそうな店だった。 雖然不是像這裡般大的店,也不是點心的種類很多,卻是一間有清潔感很舒適的店。
ランドルフは、幼少から隣國エリルキアに留學した。 蘭道魯夫從小就在鄰國艾利魯奇亞留學。
別名『人質留學』とも呼ばれる手法だ。 是別名被稱為『人質留學』的手法。
森の魔物から領地を守るのは、隣國の伯爵家も同じだった。 鄰國的伯爵家也一樣要從森林的魔物那保護領地。
國境をはさんで伯爵家同士、何が何でも友好を結ばねばならない。 夾著國境的伯爵家間不管怎樣都必須要締結友好關係。
森から相手の側に魔物を追い立てれば諍いさかいとなり、一歩間違えば國同士の戦いになる。 將魔物從森林追趕到對方那邊就會產生爭執,走錯一步就會變成國家間的戰爭。
魔物に対するにしても、両家で連絡を取り合って行うのがもっとも効率がいい。 就算是要面對魔物,兩家互相取得聯絡來進行才是效率最好的。
信頼を與え合うには、婚姻か互いの子供を預かるといった手法が多い。 在互相給予信賴上,經常是結婚或彼此寄放小孩這種手法。
それが次男であるランドルフに當てはまっただけの話だ。 那就只是對身為次男的蘭道魯夫適用的話題。
だが、人質留學と呼ばれても、ランドルフは特に思うことはなかった。 但是就算被稱為人質留學,蘭道魯夫也沒特別多想。
己の母は隣國の出身だ。 自己的母親是鄰國出生。
言葉も風習も學んでいたし、あちらの伯爵家の皆、とても親切だった。 語言及風俗都學過了,那邊的伯爵家人們都非常親切。
ただ辛かったのは――隣國に行ってから、甘い物を食べられなくなったことだ。 只是辛苦的是——去了鄰國之後就沒吃過甜食了。
隣國エリルキアでは、男が甘い物が好きと言えば笑われる。 在鄰國艾利魯奇亞,男人說喜歡甜食會被笑。
大人の男は塩の強い干し肉で、辛く強い酒を飲む、食事も辛みを好む、対して、大人の女は甘いものを好み、酒をほとんど飲まない、それが普通だ――そう知ったときは絶望した。 男性大人會吃重鹹的肉乾、喝嗆辣的酒,餐點也喜好辛辣,相對的,女性大人喜好甜食、幾乎不喝酒,那很普通——如此知道時很絕望。
食事もその傾向があり、男女の皿は盛りも中身も違う。 餐點也有那個傾向,男女盤子裡裝的內容都不同。
甘いデザートの代わり、黒コショウのクラッカーやソルトバタークッキー、ナッツの載る皿がうらめしかった。 取代甜點的黑胡椒蘇打餅乾及鹹奶油餅乾、堅果的盛盤讓人怨恨。
そんなときにあちらの伯爵家の次女に連れて行かれたのが、その喫茶店だった。 在那種時候被那邊的伯爵家次女帶去的就是那間喫茶店。
個室の手前、付き添いの従僕とメイドにも別のテーブルでお茶を飲むように命じていた。 在包廂的跟前命令陪伴的僕從與女僕在別張桌子喝茶。
皆で息抜きをしましょうという彼女に、誰も異議を唱えなかった。 誰都沒有對說著讓大家喘口氣的她提出異議。
彼女はアップルパイとミルクティを頼み、自分は黒コショウのクラッカーとコーヒーを頼んだ。 她點了蘋果派與奶茶,自己點了黑胡椒蘇打餅乾與咖啡。
店員がすべてをそろえて退室すると、彼女は座席の交換を申し出てきた。 店員備齊一切退出房間後,她提出了交換座位。
「……じつは私は、甘い物が好きではないのです……」「……其實我不喜歡甜食……」
「……じつは私も、辛い物が好きではありません……」「……其實我也不喜歡辣的……」
互いの利害が一致した瞬間だった。 是彼此利害一致的瞬間。
聞けば、彼女は料理では辛いもの、そしてきりりとした塩味のものが好みだという。 一問之下,她在料理上喜好辛辣、然後鹹得刺痛的東西。
辛みを多めに掛けただけで淑女らしからぬと言われるのだと、わずかに口を尖らせていた。 微微嘟起嘴巴說,只是灑了很多辣就被說不像淑女。
あのとき、小さく切ってアップルパイを食べていた自分と、黒コショウのクラッカーを手で包むようにして囓かじっていた彼女。 那個時候吃著切得小小的蘋果派的自己,與用手包著黑胡椒蘇打餅乾般咬著的她。
目が合って、お互いに小さく笑った。 四目相交,彼此小小的笑了。
それから二人、周囲に好みを偽ったまま、こっそりと秘密を共有した。 那之後兩人依然對周圍偽裝喜好,偷偷地共有著秘密。
甘い物が好きな従僕とメイドも巻き込み、時折、喫茶店に通った。 喜歡甜食的僕從與女僕也捲進來,偶爾去到喫茶店。
全員が笑顔になれた時間だった。 是全員化作笑臉的時間。
あるとき、もらった塩辛い干し肉を封筒に入れ、借りていた本にはさんで渡したことがあった。 有時候也會有把收到的重鹹肉乾放入信封,夾在借來的書裡給她。
本に脂がついてしまうので、次は蝋ろう引きの紙で包んでもらえないかと小さい文字のメモが來て、とても申し訳なかった。 來了小小文字寫著書沾到了油,下次能不能用蠟紙包起來的字條,我非常抱歉。
彼女はお茶の時間、紅茶の角砂糖をうまく隠し、ランドルフのカップに入れてきた。 她會在喝茶的時間好好藏起紅茶的方糖,放進蘭道魯夫的杯子裡。
しかし、大きく跳ねた滴しずくが自分の上著を汚し、謝られた。 可是大大彈起的水花弄髒了自己的上衣,被道歉了。
お詫びにと贈られた箱の中身は大瓶の蜂蜜で、とても甘かった。 作為謝罪被送來的箱子內容是大瓶的蜂蜜,而且非常甜。
學生時代のそんな思い出に、自分はきつく蓋をしていた。 自己緊緊蓋上學生時代的那些回憶。
國に帰り、領地を出た日から、過去は一切振り返るまいとしてきた。 回國、離開領地那天之後,就決定不再回顧過去的一切。
幼い日のことも、學生時代のことも忘れ、ただ魔物討伐部隊員であろう、騎士であろうとしてきた。 決定忘掉年幼的日子與學生時代,僅僅身為魔物討伐部隊員、身為騎士。
確かに、赤鎧スカーレットアーマーであることは己の誇りだ。 身為赤鎧的確是自己的驕傲。
だが、甘い物が好きで、辛い酒が苦手。毛足の長い動物が好きで、蛾が嫌い。 但是喜歡甜食而不擅長辛辣的酒。喜歡長毛的動物而討厭蛾。
そんな素の自分を偽ることはないのだと、ようやく思えた。 終於能認為不用偽裝那樣真實的自己。
そして、甘い物が好きだと気合いを入れて伝えた友にはとうに筒抜けで―― 然後鼓足勇氣要傳達說喜歡甜食卻早已洩露給朋友——
馬鹿らしいほどに安堵した。 安心得像個笨蛋。
ランドルフは口元が上がりかけるのをこらえ、焼き立てのアップルパイを口にする。 蘭道魯夫忍著要上揚的嘴角,把剛烤好的蘋果派放進嘴裡。
たっぷりと入ったリンゴのフィリングはまだ熱く、甘酸っぱく―― 放了滿滿的蘋果餡還很燙、酸酸甜甜——
これを食べるのは本當に幸せだ。 吃這個真的很幸福。
おそらく、もう二度と會うことはない彼女。 恐怕已經不會再見到她了。
けれど、願わくば今、好きな黒コショウのクラッカーを遠慮なく食べられていること、そして、幸せであるように―― 但是,可以的話現在能毫不客氣的吃著喜歡的黑胡椒蘇打餅乾,然後幸福下去——
アップルパイの上のシナモンは、少しばかり苦かった。 蘋果派上的肉桂有一點苦。
(大変おいしそうに食べるので同じものを頼む人が続くのです……)(由於吃得相當美味而不斷有點相同東西的人……)