「ほらザック、急いで。約束の時間に遅れちゃうでしょ」
急ぎ足で、私はターミナルサービスのオフィスを出た。
ギフティアを回収する部署であるターミナルサービスでは、回収対象のタイムリミットが來る前に所有者の家を訪問して、回収同意書にサインをもらう決まりになっている。今日も、私が擔當する回収対象が住むところまで出向く予定だった。
それなのに相棒であるザックは、私が急かしてもまったくそんな素振りを見せようとしない。
「ミチルがそんなに気負っても意味なくない? 交渉するのは僕なんだし」
やむなく私はその場に立ち止まって、後から來るザックを待つしかなかった。
「それはそうだけど、ほら、気分の問題よ」
「そうやって空回りしてると、またポカしちゃうよ。今度はカヅキから何発げんこつ食らうかなあ?」
「う……」
そのことを思い出したら、頭のてっぺんあたりがムズムズしてきた。あれは痛かったなあ……。
「だ、大丈夫よ。同じ失敗なんかしないし」
「ふーん。そう?」
澄ました顔しちゃって。生意気!
「ま、僕が本気出せばミチルのミスぐらい簡単にカバーできるからさ。もうちょっと心に余裕持ったら?」
いたずらげに笑って、ザックは私の顔をのぞき込んできた。
「言われなくてもあんたのことは元々信用してるってば」
どうせなら私の前でも天使みたいに振る舞ってほしいけど、それだってきっと無駄な願いだろうって諦めてるしね。
「それはどうも。じゃ、行こっか。急がないと遅れちゃうよ~」
「なっ、あんたがのんびりしてるからでしょ~! こらザック、待ちなさいよ~!」
まったく。ホント、生意気なパートナーなんだから!
電撃G's Magazine 2015年4月號掲載